2013年3月1日公開の映画『ジャンゴ 繋がれざる者』
タランティーノ8作目の監督作品にして初の西部劇『ジャンゴ 繋がれざる者』は、世界各国で高く評価され、4億ドル超えの興行収入を記録しました。アカデミー賞5部門ノミネート、タランティーノはパルプ・フィクションぶり2回目の脚本賞受賞、クリストフ・ヴァルツは前作『イングロリア・スバスターズ 』に続いて2年連続助演男優賞を受賞しました。
この記事では、映画『ジャンゴ 繋がれざる者』で流れた音楽37曲をシーン毎にご紹介します。
『ジャンゴ 繋がれざる者』で流れた曲とは?
オープニングシーン
Luis Bacalov - Django
『ジャンゴ 繋がれざるもの』のオープニングシーンで流れている音楽は、Luis Bacalov(ルイス・バカロフ)の『Django』という楽曲です。
この曲は、監督セルジオ・コルブッチ、主演フランコ・ネロのマカロニ・ウェスタン『続・荒野の用心棒』(1966)のテーマ曲です。作曲者はアルゼンチン出身の映画音楽作曲家ルイス・バカロフ、歌っているのはイタリア系アメリカ人歌手のRocky Robertsです。
『ジャンゴ 繋がれざるもの』は、クールで印象的なイントロのギターリフで始まります。
この『Django』という楽曲は、マカロニウエスタンの傑作『続・荒野の用心棒』のテーマ曲で、フランコ・ネロ演じる「ジャンゴ」がマシンガンの入った棺桶を引き摺り歩くオープニングで流れてきます…。そう、実は『ジャンゴ 繋がれざるもの』のオープニングは、この『続・荒野の用心棒』のオマージュになっているのです!
オープニングクレジットのフォントまで、まるまるオマージュしているこのシーン、西部劇好きにはたまりませんね!
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ジャンゴ達がテキサスに到着したシーン
Ennio Morricone - The Braying Mule
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴ達がテキサスに到着したシーンで流れている音楽は、Ennio Morricone(エンニオ・モリコーネ)の『The Braying Mule』という楽曲です。
イタリア生まれのエンニオ・モリコーネはタランティーノが敬愛する映画音楽作曲家です。『ニュー・シネマ・パラダイス』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の映画音楽を手がけた事で知られています。
『The Braying Mule』は西部劇『真昼の死闘』(1970)からの引用です。
南部の中心部、テキサスについたDr.シュルツとジャンゴ…馬に乗っているジャンゴに街の皆が唖然とするシーンで流れているのが『The Braying Mule』です。素朴な音楽が土煙舞う街の風景と合っていますね。
ここで家の中から驚いた顔でジャンゴ達を見る女性(13分過ぎ〜)、『旅するジーンズ』シリーズで知られるアンバー・タンブリンという女優なのですが「Daughter of a Son of a Gunfighter(ガンファイターの息子の娘)」という奇妙な役名でクレジットされています。
というのも、アンバーの実の父はRuss Tamblyn(ラス・タンブリン)。『ウエストサイド物語』で知られる彼ですが、『Son of a Gunfighter』(1965)という西部劇でも主役を演じています。そこから、彼の娘 = ガンファイターの息子の娘というカメオ出演に繋がったそうです!
ジャンゴが服を選ぶシーン
Luis Bacalov - Lo Chiamavano King (His Name Is King)
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴ達がテキサスを離れるシーンとジャンゴが服を選ぶシーンで流れている音楽は、Luis Bacalov(ルイス・バカロフ)の『Lo Chiamavano King (His Name Is King)』という楽曲です。
『Lo Chiamavano King (His Name Is King)』は1971年に公開された西部劇『キングと呼ばれた男』の主題歌です。
歌っているのはAnn Collin、エンニオ・モリコーネがスカウトしたというイタリア人歌手で、この頃の映画音楽で歌声を聴くことができます。
(エッダ・デル・オルソとクレジットされている事も多いのですが、それとは別バージョンになっています。)
ジャンゴの衣装は、1770年に製作されたトマス・ゲインズバラによる『青衣の少年』という油絵を参考にして作られたそうです。
※以下ネタバレ有り※
服を選んだ後、訪れた家の主人に「fancy-pants(派手なパンツ/スラングで過度に気取ったヤツの意味)」と言われジャンゴは怪訝な顔をしています。もしかして、初めて自分で服を選んだんじゃないのかな…と私は思いました。
クライマックスでは、ロックな丸いサングラスにバーガンディのスーツを着こなし「この色が似合うなんて知らなかった」と言っていましたね!さりげないシーンですが、自由について考えさせられます。
逃げたジャンゴが捕まった時の回想シーン
Ennio Morricone - Rito final
『ジャンゴ 繋がれざる者』逃げたジャンゴが捕まった時の回想シーンで流れている音楽は、Ennio Morricone(エンニオ・モリコーネ)の『Rito final』という楽曲です。
社会派イタリア映画監督の申し子として知られるロベルト・ファエンツァの初監督作品『エスカレーション』(1968)からの引用です。デビュー作ながら世界で高評価を得ました。
モリコーネとのコラボは長年続き、代表作『鯨の中のジョナ』(1998)でも共に作品を作っています。
ジャンゴが前にいた農園の主人に捕まったシーンで流れてくるのがモリコーネの『Rito final』です。効果的なリバーブがかかった不気味な音楽です…。
農園の主人役は名優ブルース・ダーン、流石の存在感ですね。このシーンでしか出てこないのがもったいないくらいです。
ブルース・ダーンとタランティーは、相性も良かったのか、ジャンゴの後のタランティーノの作品『ヘイトフル・エイト』では主要メンバーの一人を、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ではバート・レイノルズの代役として重要な役を演じています。
ブルームヒルダが鞭打たれる回想シーン
Anthony Hamilton - Freedom
『ジャンゴ 繋がれざる者』ブルームヒルダが鞭打たれる回想シーンで流れている音楽は、Anthony Hamilton (アンソニー・ハミルトン)の『Freedom』という楽曲です。
アンソニー・ハミルトンは1978年米・ノースカロライナ生まれのR&Bシンガーです。正統派R&Bシンガーとして人気が高く、2ndアルバム『Comin' from Where I'm From (2003)』は全米で120万枚以上売り上げたプラチナディスクとなりました。
農園を案内されているジャンゴが3兄弟を見つけたところで、妻ブルームヒルダを連れて逃げたシーンの回想になります。そこで流れてくるのがアンソニー・ハミルトンとエレイナ・ボイントンによるオリジナル書き下ろし曲『Freedom』です。
ソウルフルな男女のDUO曲で、「I’m looking for freedom (自由を求めてる)」という切実な想いを歌い上げています。悲痛なのに力強い声が、ジャンゴとブルームヒルダの心の声のようですね。
ジャンゴがブリトル兄弟を殺すシーン
Luis Bacalov - La Corsa
『ジャンゴ 繋がれざる者』、ジャンゴがブリトル兄弟に復讐を果たすシーンで流れている音楽は、Luis Bacalov(ルイス・バカロフ)の『La Corsa』という楽曲です。
セルジオ・コルブッチ監督によるバイオレンスなマカロニウエスタン『続・荒野の用心棒』(1966)からの一曲です。
『続・荒野の用心棒』は耳を切るシーンやガトリング銃による惨殺シーンなど、過剰なバイオレンスシーンが問題とされ各国で上映禁止措置が取られました。
妻ブルームヒルダを傷付けたブリトル三兄弟に復讐を果たすシーンで流れるのが『La Corsa』です。緊迫感の増すストリングスから、ヒロイックなトランペットが入ってくる名曲です。
フリフリした白いリボンに真っ青なパンツスース、時代錯誤でファンシーな服に身を包んでいるのに、銃を持って立ち向かうジャンゴの姿はとてもかっこよく心が動かされます!
今作品でも多くのオマージュが登場しますが、特に重要になるのが「Django (邦題:続・荒野の用心棒)」です。タランティーノが大好きなマカロニウエスタンで、ジャンゴの名前はもちろん、オープニングタイトルやサントラも多数引用しています。
ちなみに、タランティーノのデビュー作『レザボア・ドッグス』の耳切りシーンも同じ『続・荒野の用心棒』のオマージュになっているんですよ!
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街のギャングがジャンゴとDr.シュルツを襲うシーン
Giuseppe Verdi - Requiem/Dies Iræ
『ジャンゴ 繋がれざる者』街のギャングがジャンゴとDr.シュルツを襲うシーンで流れている音楽は、Giuseppe Verdi(ジュゼッペ・ヴェルディ)の『Requiem Dies Iræ』という楽曲です。
ジュゼッペ・ヴェルディは19世紀を代表するイタリア人作曲家です。『椿姫』や『アイーダ』の曲などは、CMやテレビでもよく使われています。
『Requiem/Dies Iræ』は、三大レクイエムと言われるレクイエムの名曲です。今回使用されたDies Iræ(邦訳:怒りの日)は、レクイエムの中の2曲目として演奏されます。
KKKを彷彿させる白い被り物をした街の男達がDr.シュルツの馬車目掛けて奇襲をかけるシーンで流れてくるのがヴェルディの『レクイエム』です。タランティーノが大ファンだと公言している深作欣二監督が『バトルロワイヤル』(2000)で使用した音源を使っています。
KKKのような見た目が恐ろしい…のですが、目の穴の位置が悪くて前が見えないとかで、なかなかポンコツな襲撃でした…タランティーノ節全開のコミカルなワンシーンですね!
ジャンゴとDr.シュルツが仲間になったシーン
Jim Croce - I Got a Name
『ジャンゴ 繋がれざる者』のジャンゴとDr.シュルツが仲間になったシーンで流れている音楽は、Jim Croce(ジム・クロウチ)の『I Got a Name』という楽曲です。
ジム・クロウチは1943年生まれのシンガーソングライターです。1972年には2ndアルバムの『ジムに手を出すな』で全米1位を記録し、全米ツアーを大成功に収めました。しかし『I Got a Name』のリリースを翌日に控えた1973年9月20日、飛行機事故で帰らぬ人となってしまいました。
ブルームヒルダの話をDr.シュルツとし、賞金稼ぎとして正式にパートナーとなった二人。そこで流れてくるのがジム・クラウチの名曲『I Got a Name』です。
ジェフ・ブリッジ主演の『ラスト・アメリカン・ヒーロー』(1973)の主題歌としても有名なこの曲は、『ジャンゴ 繋がれざる者』のサントラ発売当時から意外な選曲と各地で話題になっていました。
タランティーノにしては爽やかな選曲ですが、広大なアメリカの自然の映像によく合っていて美しいシーンになっていますね!
ジャンゴが銃の練習をするシーン
Riziero Ortolani - I Giorni Dell’ira
『ジャンゴ 繋がれざる者』のジャンゴが銃の練習をするシーンで流れている音楽は、Riziero Ortolan(リズ・オルトラーニ)の『I Giorni Dell’ira(イ・ジョルニ・デリラ)』という楽曲です。
リズ・オルトラーニは『食人族』『世界残酷物語』などイタリアカルト映画のサントラを数多く手がけたことで有名なイタリア人作曲家です。非常に美しいメロディーメーカーとして知られています。
『I Giorni Dell’ira(イ・ジョルニ・デリラ)』はリー・ヴァン・クリーフ主演のマカロニウエスタン『怒りの荒野』(1967)のテーマ音楽です。
ジャンゴがかわいいスノーマン相手に銃の練習をするシーンで流れるのがリズ・オルトラーニの『I Giorni Dell’ira』です。リズミカルでクールな1曲です。『怒りの荒野』はタランティーノが大好きなマカロニウエスタン作品の一つで、『キル・ビル』でもサウンドトラックを引用していましたね!
この雪の中のシーンはマカロニウエスタンの傑作『殺しが静かにやってくる』のオマージュとなっています。銀世界に飛び散る血飛沫…タランティーノらしい美意識が溢れたシーンですね!
ジャンゴとDr.シュルツがミシシッピに着いたシーン
Ennio Morricone - The Big Risk
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴとDr.シュルツがミシシッピに着いたシーンで流れる音楽は、Ennio Morricone(エンニオ・モリコーネ)の『The Big Risk』という楽曲です。
『The Big Risk』は、フィル・カルーソン監督による戦争映画『要塞』(1970)のサウンドトラックです。この頃のモリコーネは、主にマカロニウエスタンの映画音楽を手がけていたので、初期モリコーネ作品では数少ないアメリカ映画のためのサントラです。
春になり、ジャンゴとDr.シュルツは山を降りミシシッピに向かいました。1858年は南北戦争が勃発する3年前、テキサスやミシシッピなどのアメリカ南部では奴隷制度が色濃く残り差別が当然だと思われていた時代です。つまり、そんな時代のミシシッピにジャンゴが向かう事…とっても危険な事なんです。
このシーンで流れてくるのはモリコーネの『The Big Risk』は、ナチスに親を殺されたイタリア人の子供達が瀕死のアメリカ兵を助け共に戦う『要塞』という映画のサントラです…タランティーノの前作『イングロリアス・バスターズ 』を彷彿させますね!
ちなみに、画面に流れてくる印象的な『Mississippi』のロゴは『風と共に去りぬ』のタイトルシーンのオマージュになっています。
ジャンゴとDr.シュルツが農場を訪ねたシーン
Traditional Folk Song - A Peanut Sat On A Railroad
『ジャンゴ 繋がれざる者』、ジャンゴとDr.シュルツが農場を訪ねたシーンの奥の部屋で流れている音楽は『A Peanut Sat On A Railroad 』という楽曲です。
『A Peanut Sat On A Railroad 』はアメリカに古くから伝わる童謡です。
敵地に足を踏み入れる緊迫のシーン…甲高いねこなで声で二人を出迎える黒人のメイド。チラッと映る奥の広間では黒人のホステスが白人たちをもてなしています。
広間で楽しげに皆が歌っているのが『A Peanut Sat On A Railroad 』という童謡です。ピーナッツが線路に座っていたら電車が来ちゃった!という、楽しげなのに物騒な歌で、この後のバイオレンスシーンを暗示しているようですね…。
ここからのバイオレンスシーンは、1973年のカルト映画『マンディンゴ』からの影響を受けていると言われています。酷いバイオレンス描写と差別描写で今なお賛否分かれる作品ですが、タランティーノ曰く『ジャンゴ 繋がれざる者』でも描ききれないほどの真実がある映画、だそうです。
ジャンゴがキャンディの手下と揉めるシーン
Ennio Mrricone - Minacciosamente Lontano
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴがキャンディの手下と揉めるシーンで流れている音楽は、Ennio Morricone(エンニオ・モリコーネ)の『Minacciosamente Lontano』という楽曲です。
セルジオ・コルブッチ監督による西部劇『黄金の棺』(1967)のサウンドトラックからの引用です。南北戦争後、南部再興を夢見て北軍から現金を強奪し…という、マカロニ・ウエスタンの佳作です。
馬車に乗ったキャンディにジャンゴとDr.シュルツが合流するシーン。緊迫感のあるパーカッションが印象的なモリコーネの『Minacciosamente Lontano』が流れています。
ジャンゴ達は昨夜のディナーをキャンディと共にしたのでしょうか?時折キャンディが独自の黒人に対する考えをディナーで披露している場面が挟まれます。
怒りを我慢していたのであろうジャンゴが手下にキレるまで…緊迫感を増させる効果的な音楽ですね!
キャンディ一行が屋敷に向かうシーン
Rick Ross - 100 Black Coffins
『ジャンゴ 繋がれざる者』、キャンディ一行が屋敷に向かうシーンで流れている音楽は、Rick Ross(リック・ロス)の『100 Black Coffins』という楽曲です。
米・マイアミ生まれのギャングスタ・ラッパー、リック・ロスによるオリジナル曲です。ラッパーとしても活動しているジャンゴ役のジェイミー・フォックスがプロデュース・作詞しています。
一連の騒動が収まり、キャンディの屋敷へ戻るシーンで流れてくるのがリック・ロスの『100 Black Coffins』です。馬車に乗るキャンディに続いて、馬に乗った手下達、キャンディが所有する奴隷達が続き歩く様子が映し出されます…まるで悪趣味な大名行列のようですね。
前作『イングロリアス・バスターズ 』に続いて壮大な復讐劇を書いたタランティーノ。黒人差別というセンシティブなテーマなだけに、難しいところもあったようですね。スパイク・リー監督は『観る気がおきない』と一蹴し話題になっていました。
マンディンゴのダルタニアンが殺されるシーン
Jerry Goldsmith - Nicaragua
『ジャンゴ 繋がれざる者』、マンディンゴのダルタニアンが殺されるシーンで流れている音楽は、Jerry Goldsmith (ジェリー・ゴールドスミス)の『Nicaragua』という楽曲です。
ジェリー・ゴールドスミスは『猿の惑星』や『エイリアン』などの映画音楽で知られるレジェンド的映画音楽作曲家です。アカデミー賞ノミネート回数は18回、『オーメン』(1976)で見事作曲賞を受賞しました。
『Nicaragua』は1983年公開のアメリカ映画『アンダーファイア』のサントラです。
逃げたマンディンゴの負債を支払うと名乗り出たDr.シュルツを止めたジャンゴ…ジャンゴのせいで逃げたマンディンゴのダルタニアンは犬に食い殺されるはめになりました。
キャンディの残忍さがよく表されているシーンでありつつ、同時にジャンゴの覚悟を感じる大切なシーンです。ここで流れてくるのが映画音楽の大巨匠ジェリー・ゴールドスミスによる『ニカラグア』。なんと、ギタリストのパット・メセニーもゲストとして参加しているそうですよ!
3時間とタランティーノ作品の中でもなかなかの超大作の今作品、ちょうど物語の中盤で流れる壮大な楽曲にワクワクしてしまいます!タランティーノ作品常連のサミュエル・L・ジャクソンも満を辞して登場です!
ブルームヒルダが灼熱の箱から出されるシーン
Ennio Morricone - Sister Sara's Them
『ジャンゴ 繋がれざる者』、ブルームヒルダが灼熱の箱から出されるシーンで流れる音楽は、Ennio Morricone (エンニオ・モリコーネ)の『Sister Sara's Them』という楽曲です。
『Sister Sara's Them 邦題:シスター・サラのテーマ』はクリント・イーストウッド主演の西部劇『真昼の死闘』(1970)からの一曲です。
マカロニウエスタン風の作品ですが、監督は『ダーティーハリー』シリーズで有名なドン・シーゲルです。
待ちに待ったブルームヒルダとの再会は思い描いていたよりも苦しいものでした。ここで流れてくるのがモリコーネの名曲『サラのテーマ』です。
『真昼の死闘』の中では、シャーリー・マクレーン演じる尼僧のふりをした娼婦であり、男勝りなヒロイン、サラのテーマ曲として使われました。美しくも切ない音楽が、ジャンゴと離れてしまった後も、力強く生きるブルームヒルダにピッタリですね…。
キャンディの屋敷、ディナー準備のシーン
Elisa - Ancora Qui
『ジャンゴ 繋がれざる者』のキャンディの屋敷、ディナー準備のシーンで流れている音楽は、Elisa(エリサ)の『Ancora Qui』という楽曲です。
イタリア人シンガーのエリサによる『Ancora Qui』。イタリアとアメリカで人気の高い歌手で、トリノオリンピック閉会式でパフォーマンスをしたことでも知られています。
『Ancora Qui』はモリコーネがエリサのために書き下ろした新曲で、グラミー賞にもノミネートされました。
モリコーネの美しい音楽をバックに映し出されるのは黒人のメイド達によるテーブルセッティング…とても美しいシーンですね。
『Ancora Qui』はなんとモリコーネによる新曲!今では、イタリア人歌手エリサのために書き下ろした曲だと言われています。
というのも、この曲は『ジャンゴ 繋がれざる者』のオリジナルサウンドトラックで初リリースされたので、当初はモリコーネがタランティーノのために書き下ろしたと言われていたのですが、モリコーネ自身がその噂を否定したため、うやむやになってしまいました…。どちらにしても美しいシーンにマッチした素晴らしい曲ですね!
ブルームヒルダがDr.シュルツと話すシーン
Luis Bacalov - Blue Dark Waltz
『ジャンゴ 繋がれざる者』ブルームヒルダがDr.シュルツと話すシーンで流れている音楽は、Luis Bacalov(ルイス・バカロフ)の『Blue Dark Waltz』という楽曲です。
再び『続・荒野の用心棒』からの引用です。
ジャンゴという名のヒーローの元祖と言われる『続・荒野の用心棒』でジャンゴを演じたのは『ダイハード2』でも知られるフランク・ネロ。今作品でもカメオ出演しています。
怯えるブルームヒルダにドイツ語で話しかけるDr.シュルツ。「友達と共に救いにきた」と告げるシーンで静かに流れているのがルイス・バカロフによる『Blue Dark Waltz』です。
テーマ曲ほどの知名度はないものの、お洒落でどこかセンチメンタルなワルツ…ジャンゴとブルームヒルダの再会に相応しい名曲です。
先述したように、元祖ジャンゴを演じたフランク・ネロは本作にカメオ出演しています。(1時間8分〜)ジャンゴに名前とスペルを聞き、「D-J-A-N-G-O、Dは発音しない」と言われ「知ってる(I know)」と答えています。…彼が初代ジャンゴなんだから知ってるに決まっているというシャレたジョークですね。
ブルームヒルダの売買契約書を交わすシーン
Ludwig Van Beethoven - Fur Elise
『ジャンゴ 繋がれざる者』ブルームヒルダの売買契約書を交わすシーンで流れている音楽はLudwig Van Beethoven(ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン)の『Fur Elise エリーゼのために』という楽曲です。
日本では『第九』で有名な誰もが知るドイツ人の大作曲家、ベートーヴェン。ベートーヴェンの有名なピアノ曲『エリーゼのために』をハープ用に編曲したものが使われています。
ジャンゴとブルームヒルダの関係性がバレ、銃を突きつけられたジャンゴとDr.シュルツ…本性を表し劣化の如くキレるムッシュ・キャンディに脅されるようにして、ブルームヒルダを12,000ドルで買う事になりました。この頃の12,000ドル…今の価値で言うと約36万ドル、日本円で4,500万相当だそうです…。
契約書を交わすシーンで演奏されているのがベートーヴェンの『エリーゼのために』、Dr.シュルツが止めるまで弾き続けます。
エリーゼのためにといえば、タランティーノの前作『イングロリアス・バスターズ 』の冒頭でもモリコーネによるアレンジ版で効果的に使われていましたね!
キャンディの屋敷内での銃撃戦のシーン
James Brown & 2Pac - Unchained (The Payback / Untouchable)
『ジャンゴ 繋がれざる者』のキャンディの屋敷内での銃撃戦のシーンで流れている音楽は、James Brown(ジェームス・ブラウン)の『The Payback』と2Pacの『Untochable』をマッシュアップした『Unchained』という楽曲です。
ジェームス・ブラウンはゴッドファーザー・オブ・ソウルとも言われるレジェンドソウルシンガーです。2Pacはブラックパンサー党員の母を持ち、25歳で非業の死を遂げたHIPHOPレジェンドラッパーです。
そんな2人の名曲をマッシュアップしたのが『Unchained』です。
個人的にタランティーノ映画の中でTop5に入る名シーンです…Dr.シュルツカッコ良すぎます。血飛沫が飛び散る激しい銃撃戦で流れるのは『Unchained』、絶体絶命の銃撃戦で撃ちまくるジャンゴに2Pacのビートが合わさり…タランティーノお得意のスタイリッシュバイオレンス名シーンです!!
※以下ネタバレ有り※
Dr.シュルツがキャンディを撃ち殺すシーン…タランティーノの名場面には名画あり!オマージュの連続です。まずはDr.シュルツの拳銃は俗にスリーブガンと言われるそうですが、ロバート・デニーロの名作『タクシードライバー』へのオマージュですね。ディカプリオ演じるキャンデイが胸の花を撃ち抜かれるのは『ジャガー/豹』でジャック・パウエル演じる悪役の見事な死に様のオマージュです。
ジャンゴが投降するシーン
Richie Havens - Freedom
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴが投降するシーンで流れている音楽は、Richie Havens(リッチー・ヘブンス)の『Freedom』という楽曲です。
リッチー・ヘブンスは1969年の歴史的音楽フェスティバル『ウッドストック・フェスティバル』のオープニングシンガーとして知られるフォーク/R&Bシンガーです。
『Freedom』はウッドストック・フェスティバルで、急遽パフォーマンス時間が増えていまい、黒人霊歌『Sometimes I Feel Like a Motherless Child』をベースに即興的に作られました。
「ジャンゴ・フリーマン」が投降する時に流れるのが、この『Freedom』。1969年のウッドストック・フェスティバル、初日のオープニングを飾ったリッチー・ヘブンスが舞台で即興し生み出した名曲です。作品内でもウッドストックでのライブ音源が使われています。
『Freedom』は古くからある黒人霊歌『Sometimes I Feel Like a Motherless Child』がベースになっている曲です。「時には母のない子のように」と訳されるこの曲は、奴隷制で虐げられていた黒人たちの魂に寄り添う大切な歌でした。
『ウッドストックの象徴』とも言われるリッチーの名曲がここで流れてくるとは…力強いギターとボンゴがパワーを分けてくれるようですね…。
ジャンゴが奴隷として採掘会社に連れられていくシーン
Johnny Cash - Ain't No Grave
『ジャンゴ 繋がれざる者』のジャンゴが奴隷として採掘会社に連れられていくシーンで流れている音楽は、Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ)の『Ain't No Grave』という楽曲です。
ジョニー・キャッシュはグラミー賞を11回受賞したアメリカのカントリーシンガーです。ホアキン・フェニックスがジョニー役を演じた伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道(Walk The Line )』でも知られています。
拷問を受けるところを、なんとか免れたジャンゴ。拷問よりも辛いと言われる採掘会社に連れられていくシーンで流れてくるのが、ジョニー・キャッシュの死後に発表された名曲『Ain't No Grave』です。ジョニー・キャッシュは2003年9月に亡くなってしまいましたが、その直前にレコーディングしていたそうですね。
『Ain't No Grave』は作者不明のゴスペルソングで、パイレーツオブカリビアン5の主題歌としても知られています。「俺を入れられる墓なんてない」という歌詞で、ジャンゴの復讐心がまだ燃えていることを表しているようですね!
ジャンゴがオーストラリア人を撃ち殺すシーン
John Legend - Who Did That to You?
『ジャンゴ 繋がれざる者』のジャンゴがオーストラリア人を撃ち殺すシーンで流れている音楽は、John Legend(ジョン・レジェンド)の『Who Did That to You?』という楽曲です。
1978年米・オハイオ生まれのR&Bシンガー、ジョン・レジェンド。『ラ・ラ・ランド』への出演や『美女と野獣』の主題歌でよく知られています。2019年にはPeople誌『最もセクシーな男性』に選ばれたり、妻のクリッシー・テイゲンとのエピソードで話題になったりと、なにかと話題のソウルシンガーです。
『Who Did That to You?』は『ジャンゴ 繋がれざる者』のための書き下ろし曲です。
人の良い間抜けなオーストラリア人たちを撃ち殺したシーンで流れてくるのが、『Who Did That to You?』、間抜けなオーストラリア人役としてタランティーノ監督が出ています。運んでいたダイナマイトのせいで、ド派手な死に方をします。
ジャンゴが土煙の中から現れるのは『荒野の用心棒』(1966)でクリント・イーストウッドが演じる名無しの男へのオマージュです。
馬の鞍を外して自由にしてからまたがり、走り去るジャンゴ…痺れます!
ジャンゴがキャンディランドに戻り復讐を始めるシーン
Brother Dege - Too Old to Die Young
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴがキャンディランドに戻り復讐を始めるシーンで流れている音楽は、Brother Dege(ブラザー・デーゲ)の『Too Old to Die Young』という楽曲です。
ブラザー・デーゲは2004年頃からアメリカで活躍している米・ルイジアナ出身のミュージシャンです。『ジャンゴ 繋がれざる者』のサントラとして提供したこの『Too Old to Die Young』で知られています。
自由に好きなことをしている男達が映し出された…と思いきや、ジャンゴがダルタニアン(犬に食い殺されたマンディんご)の仇を取りに来るシーンで流れているのが『Too Old to Die Young』です。日本語訳すると「早死にするには年取り過ぎてる」ですが、英語にするだけでなんでこんなに格好いいんでしょうね…!
マンディンゴのダルタニアン、名前はデュマの名作「三銃士」の主人公から取られている、というのはDr.シュルツが作中で言及していましたね。「三銃士」は何度も映画化されていますが、その中でも人気が高い『仮面の男』(1998)はタイタニックで人気絶頂期だったディカプリオが出演していることで知られています。Dr.シュルツは「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(2011)に出演していましたし…そこら辺も上手く絡めてるのかもしれません!
ジャンゴがDr.シュルツに別れを告げブルームヒルダを迎えに行くシーン
Ennio Morricone - Un Monumento
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴがDr.シュルツに別れを告げブルームヒルダを迎えに行くシーンで流れている音楽は、Ennio Morricone(エンニオ・モリコーネ)の『Un Monumento』という楽曲です。
再びセルジオ・コルブッチ監督による西部劇『黄金の棺』(1967)からの引用です。モリコーネによる美しいサウンド・トラックが有名な作品ですが、その中でもトランペットを使用した葬送曲のようなテーマ『Un Monumento』はモリコーネ作品の中でも特に人気のある曲です。
放置されていたDr.シュルツの亡骸に別れを告げるシーンで流れてくるのが『Un Monumento』です。哀愁漂うトランペットの音色が涙を誘います。「また会う日まで(auf wiedersehen)」と告げるのがまた…良いシーンですね。
映画音楽の巨匠と言われるモリコーネ、トランペットの名曲が多いことで知られていますが、実は父がトランペット奏者、モリコーネ本人もトランペットで音楽学校を卒業しているトランペッターなんですよ!納得ですね!
ジャンゴがキャンディの屋敷に戻り復讐するシーン
Ennio Morricone - Dopo La Congiura
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴがキャンディの屋敷に戻り復讐するシーンで流れている音楽は、Ennio Morricone(エンニオ・モリコーネ)の『Dopo La Congiura』という楽曲です。
前曲に引き続きコルブッチの西部劇『黄金の棺』(1967)からの引用です。英題は『The Hellbenders』、向こう見ずといった意味のスラングです。『黄金の棺』という邦題は、映画評論家の淀川長治氏がTV放映の際に付けたそうです。
キャンディの葬式から帰ってきた一行を待ち受けていたのは正装したジャンゴでした。
モリコーネによるThe 西部劇の音楽が流れる中、ジャンゴによる最後の復讐が始まります。黒人でありながら、同じ黒人奴隷を苦しめていたスティーヴンを追い詰めます。サミュエル・L・ジャクソンの死に様は西部劇の傑作『続・夕陽のガンマン』のラストシーンへのオマージュになっています。
ジャンゴがキャンディの屋敷を爆破するシーン
Franco Micalizzi - Trinity: Titoli
『ジャンゴ 繋がれざる者』ジャンゴがキャンディの屋敷を爆破するシーンで流れている音楽は、Franco Micalizzi(フランコ・ミカリッツィ)の『Trinity: Titoli』という楽曲です。
テレンス・ヒルとバッド・スペンサーが能天気な兄弟を演じた人気コメディウエスタン『風来坊/花と夕日とライフルと…』(1970)から、主人公トリニティのテーマ曲です。
作曲者はFranco Micalizzi、歌っているのはイタリア人歌手Annibale Giannarelliです。
ジャンゴがダイナマイトに火をつけ立ち去るシーンで流れ出すのが『Trinity: Titoli』、クールな口笛のイントロが盛り上がり、ブルームヒルダが耳を塞ぐ…最高にクールなエンディングです!
実は、この時代にまだダイナマイトが発明されていないということで、公開直後賛否両論を巻き起こしました…そんな野暮な事言わずに、と思うようなカッコいいエンディングですけどね!
『Trinity: Titoli』は『風来坊/風と夕日とライフルと…』というコメディマカロニウエスタン映画で、本国イタリアをはじめ世界で大ヒットしたようです。何故だか日本ではあまり流行らなかったみたいですが、続編や派生作品もあるほどの人気作なので…そんな作品のテーマソングと知って聴くとまた違って聞こえてきますね!
エンディングソング
RZA - Ode to Django (The D Is Silent)
『ジャンゴ 繋がれざる者』のエンディングシーンで流れている音楽は、RZA(レザ)の『Ode to Django (The D Is Silent)』という楽曲です。
RZAは米・ブルックリン出身のヒップホップアーティスト、名前の由来は「Razor(カミソリ)」です。ヒップホップグループ『ウータン・クラン』の事実上のリーダーとして知られています。
『Ode to Django (The D Is Silent)』は、iTunes限定ボーナストラックとしてサントラに収録されています。
前曲に続いてエンドクレジットで流れてくるのがRZAの『Ode to Django (The D Is Silent)』、odeとは「頌歌」の意味を持つので、ジャンゴを讃える歌といった意味のタイトルになっています。
RZAは熱心なカンフー映画ファンとしても知られ、そこからタランティーノやジム・ジャームッシュとの親交が生まれたとか。RZAが監督した『アイアンフィスト』(2013)の制作ではタランティーノと盟友イーライ・ロスが全面協力したそうです。
筆者の感想
前作『イングロリアス・バスターズ 』に続いて壮大な復讐劇となった『ジャンゴ 繋がれざる者』、史実とは異なる部分もあるのでしょうが、南北戦争前のアメリカ南部の雰囲気が良く描かれているタランティーノ風西部劇です。
Dr.シュルツとディカプリオの最期のシーンは、『男ならやらなきゃいけない』みたいな漢気溢れるDr.シュルツの真っ直ぐさに心打たれました…。スローモーションの演出といい、素晴らしいですね!
相変わらず選曲のセンスも抜群なタランティーノ、マカロニウエスタンの名作からの引用ももちろん素晴らしいですが、2Pacの『Untouchable』でテンションMAXです…なんてクールなんでしょう!
自由を求め、愛する人を助けに行くジャンゴ…その生き様に痺れます。