2023年12月8日に公開された映画『市子』
原作は、監督の戸田彬弘主宰の「劇団チーズtheater」旗揚げ公演作品『川辺市⼦のために』。
市子は、3年付き合った恋人にプロポーズされ幸せを噛み締めていたが、翌日になると姿を消した。
彼女はなぜ逃げたのかー？
杉咲花主演のヒューマン・ミステリー。
杉咲花さんのようなキュートな女性になりたかった、アラフォーオバのbeersyです！
可愛いだけではなく、圧巻の演技力、そして歌手が魅了される歌声も持ち合わせている、杉咲花さん主演。
本作で、第47回日本アカデミー賞・優秀主演女優賞を受賞。まさに全力で役に挑んだ作品です！
この記事では、Netflix映画『市子』を鑑賞した筆者の感想やあらすじ、ネタバレ解説をご紹介いたします！
『市子』の評価＆感想
- 感動度
- 4
- 脳トレ度
- 4
- 再鑑賞度
- 5
- サプライズ度
- 4
- 話題性
- 5
映画が観客の心にどれだけ響くか、感動の深さや涙の数を評価する。
物語の複雑さや、観客が考えるきっかけを与えるか、推理や考察が必要かなどを評価。
何度も見返したくなる魅力があるか、2回目以降に新しい発見や解釈ができるかを評価。
期待を裏切る展開、驚きのエンディング、斬新な演出など、映画全体のサプライズ要素を評価。
人々の間でどれだけ話題になるか、SNSでのシェアや友人・家族との会話のタネになるかを評価。
戸田彬弘監督が杉咲さんに手紙を送り、今回の主演が決定しました。
意外にも杉咲さんは本作が初の映画単独主演。
「精根尽き果てるまで心血を注いだ」と仰っていましたが、まさにその気迫が伝わって来る演技に圧倒されました。
ストーリーは、消えた「市子」を探す男性・長谷川（演：若葉竜也さん）が、彼女の過去を知る人物達に会い、半生を知って行く…というもの。
それはそれは壮絶な半生で、現実にも起こりうる事件や出来事がリアルに描かれています。
過去と現在が切り替わりながら進むので、観る側も一緒になって市子という人間を知って行く。そんな過程を楽しめました。
杉咲さんの圧巻の演技に惹き込まれて重苦しいけれど、夏の蝉の声や波の音などが多く取り入れられていて、とてもエモーショナルな作品です。
以下より重要なネタバレを含みます。
『市子』のネタバレ
市子の失踪
8月12日。
長谷川（若葉竜也）は川辺市子（杉咲花）にプロポーズをする。
市子は涙を流しながら「嬉しい」と言って笑っていた。
さらに長谷川は買って来た浴衣を差し出し「明日これ着て花火見に行こう」と誘う。
しかし翌日、テレビから「昨日夕方、東大阪市の生駒山で、年齢不詳性別不明の遺体が発見されました。死後8年は立っている模様」というニュースが流れると、市子はベランダの窓から出て行く。
バッグは置き去りにして、長谷川から逃れるように走って行った。
ーー
8月21日、長谷川は警察に市子の失踪届を提出し、刑事の後藤（宇野祥平）に相談していた。
市子とは3年付き合ったもののお互いの話はあまりせず、市子は1987年生まれの28歳、東大阪市出身とだけ伝える。
しかし長谷川は、そこで驚愕の事実を突きつけられた。
後藤は「実は、市子っていう女性は、存在せぇへんのですよ」と告げる。
1999年7月、山本さつき。
市子はなぜか母のなつみ（中村ゆり）から「月子」と呼ばれていた。
なつみは小泉（渡辺大知）という男性の接客をしている。
さつきは、市子が好きな男子の事を「気持ち悪いし嫌いや。あんたの父親と同じ」と言ったため腹を立て、取っ組み合いの喧嘩になるが、年下であるはずの市子のほうがはるかに強かった。
2000年9月、幸田梢。
胸が大きくなって来た小学生の梢は、男子にからかわれているところを市子に助けてもらう。
しかしそこでも市子は「月子」として在学していた。
それを知らない梢は「月子ちゃん」と呼んで仲良くしようとするが、彼女が物を盗んだり、自分の母親を好いている小泉を利用し、金を巻き上げているのを見て絶交した。
2009年5月、吉田キキ。
パティシエになる事が夢と言うキキ（中田青渚）は、ケーキを作っては市子に味見してもらっていた。
市子もケーキが好きだと聞くと、「一緒にケーキ屋をやろう！」と言って笑った。
すると市子は、「うちは夢を持つ資格はない。人殺してもうた…嘘嘘、なんもないよ」と悲しそうに呟く。
ーー
2015年8月28日、長谷川は毎日突然失踪した市子を探していた。
世間では、「8月12日に、生駒山で白骨化した10～20代の女性の遺体が発見された」というニュースが注目されている。
長谷川は、市子が勤めていた新聞配達の同僚である女性・吉田キキが働く洋菓子店に行った。
キキは、訪ねて来た長谷川に市子が呟いた事を伝える。
小学生の市子は、非常に異質な存在であった事が描かれていました。
発見された遺体に関わっているようですが、心底明るいキキの存在はきっと彼女にとって大きなものだったでしょう。
ひたすら市子を想う長谷川も不憫でなりません。
妹
警察は、市子となつみを追っていた。
長谷川は無理やり後藤に頼み込み、警察はなぜ市子を探しているのかと聞く。
すると後藤は、最近生駒山で見つかった白骨化した遺体が、筋ジストロフィーの患者のものである事が判明したが、その遺体が川辺月子の可能性があると言った。
川辺月子は、2歳から知的障害を伴う筋ジストロフィーに罹患しており、それは生涯治る事は無い。
梢の証言で、市子の家のトイレに介護用のおまるがあった事からも、月子は市子の家にいたとみられる。
しかし、川辺家の戸籍謄本を見ると市子の名前が無い。
後藤は「市子が生まれた同年に離婚したなつみが、市子の出生届を出さなかった」
「無戸籍の市子は妹の月子になりすまし、小学校4年生から高校まで就学していた」
「しかし、長谷川さんの話からすると、吉田キキには本名の市子を名乗っている。病院に通えず携帯も持てない、そしてろくな仕事にも就けないけれど『市子』として生きて行く事を選んだのには、何か理由があると思うんですよね」と明かした。
ーー
長谷川と後藤は、NGO無戸籍支援の会「アカシ」の代表・井出に会いに来ていた。
彼女によると、2010年の夏に市子が訪ねて来て「母親が行方不明で父親は誰か分からないけれど、戸籍は取れますか」と相談して来たと言う。
しかしそのためには「就籍」と言って、まずは日本人である事を証明するため、指紋を採らないといけない。
そこで市子は断念したそうだが、その冬に市子を探している大学生の男性が訪ねて来たそうだ。
高校を出るまでは「月子」と名乗っていたのに、なぜ彼は「市子」を知っていたのか？
長谷川と後藤は、その男性が「北秀和」（森永悠希）であると聞いて会いに行く。
ーー
2008年7月、北秀和。
駄菓子屋の前でアイスを食べている北の前に、月子が現れ一緒に食べる。
花火大会のポスターを見て「うち、花火好きやねん」と言っている彼女を見て、北は花火大会に誘おうとしたが出来なかった。
北は市子に惹かれて行く。
ーー
後藤は、北に「自分は昔、小泉雅雄が色んな疑問を残したまま、自殺として片付けられた事件に関わっていた。でも絶対に川辺家が関わっている。なぜ君は市子の名を知っていたんだ？」と言って問い詰める。
しかし北は「市子の名は帰り道に聞いた。ちょっと心配になって調べただけです」と、関与を否定。
すると長谷川が、北の部屋から物音が聞こえたため無理やり中に入ると、窓が開いていて中はもぬけの殻だった。
しかし長谷川はここに市子がいたと断定し、後藤が帰った後「俺はあなたと同じく市子の味方です。警察には言いません」と言って話を聞く。
同級生（市子の元彼）にいじめられていた北が登場。
元彼は彼をストーカー呼ばわりしていましたが、市子の味方となっているのでしょうか？
中盤では、市子の悲しい過去が次々と判明して来ました。後藤刑事が手腕を発揮しています！
真実
高校生の頃、北が市子を送った際に、小泉が無理やり入って行くのを見かけ外から様子を伺っていた。
すると小泉は、月子を埋めた事などを話し「お前らのせいで人生めちゃくちゃだ！」「お前は偽物だ」と市子を罵る。
それに逆上した市子は、小泉をナイフで刺し殺してしまった。
北は家の中に入り「俺は川辺のヒーローになるのが夢だった。絶対守るから大丈夫」と言って市子を落ち着かせる。
その後2人で一緒に小泉を人気のない線路に運んだが、途中で市子はいなくなっていた。
パニックになった北は、とりあえず小泉を線路に寝かせ逃げたが、市子は戻って来なかった。
ーー
長谷川と別れたあと、北は市子が働くキキの店へ。
しかし市子は「どうしても市子として友達との夢を叶えたい。うちの事は忘れて。過去を知る人とはもう会いたくない」と言い放った。
ーー
突然、北の家に「北見冬子」（石川瑠華）と名乗る若い女性が現れた。
彼女は天涯孤独の自殺志願者であり、ネットの掲示板で知り合った「川辺市子」から、ここに来るように住所を教えられたと言う。
2人で動揺していると冬子に電話がかかって来て、2人で自分のところに来て欲しいと言われた。
北が冬子を乗せて車を走らせると、夜中の海岸でロケット花火を飛ばしている市子がいた。
一方長谷川は、市子の荷物の中にあった、なつみ・小泉・月子・市子が笑顔で食卓を囲む家族写真の裏に「やまうらみちこ 徳島県～」と住所が書かれているのを見つけ、徳島県へ。
「やまうらみちこ」はなつみが使っている偽名であり、長谷川は彼女に会うと「僕は警察じゃありません。どうしても市子さんを助けたい、ただの恋人です」と懇願し、話を聞く事になった。
ーー
2008年8月、市子。
市子はヤングケアラーであり、働き詰めのなつみの代わりに、寝たきりの月子の介護をしていた。
しかしある時限界を迎え、酸素マスクを外してしまう。
帰宅し、息絶えた月子を見たなつみは、無表情で座り込んでいる市子を見て「市子、ありがとうな…」と力無く言った。
ーー
長谷川に真実を明かしたなつみは「何もかも限界だった」と言って泣き出し、長谷川も市子を想って泣いた。
そして長谷川が徳島県を出ようとすると、後藤から着信が入ったが出すに無視した。
テレビからは「海岸に突っ込んだ車の中から、若い男女の遺体が見つかった」というニュースが流れていた。
ーー
市子は、なつみがよく口ずさんでいた童謡「虹」を歌いながら歩いている。
長谷川との幸せだった時間に思いを巡らせ、前を向いた。
無表情で酸素マスクを外す市子…息を呑むシーンでしたね。杉咲さん素晴らしいの一言！
衝撃のラストでしたが、冬子が「身寄りがないので大丈夫です」と言っていた事から、彼女は事前に市子に「死なせてあげる代わりに、戸籍を使わせて欲しい」と言われていたのだろうと推測出来ます。
夏に焦点をあてていた本作ですが、次から市子は「冬子」として生きて行くのか？
市子は「市子」で生きて行きたいと願っていましたが、殺人を重ねてしまいそれが出来ないと悟ったのでしょう。
愛している長谷川には迷惑をかけたくない、そう考えて思い出は胸の中にしまい込み、冬子として図太く生きて行く。
でもきっとその生活は長くは続かないだろうな、と思いました。
（後藤刑事は小泉の自殺にも疑問を抱いており、どうにかして証拠を手にいれるのではないかしら…）
本作、市子を知る人のほとんどが、彼女の中の狂気に触れていたように思います。
犯罪だけ見れば殺人鬼なのですが、無戸籍、ヤングケアラーにならざるを得なかった事などから、憐憫の情を催しました。
人との距離の縮め方が分からないのも、繋ぎ止める方法が強引なのも痛々しい！
ラストの考察
きっと視聴者全員が気になっている、北くんの死。
後藤がいる警察署内でニュースから流れていた、海に飛び込んだ車の中の男女の遺体は、北と冬子で間違ありませんよね。
しかし、北は市子に殺されたのか、自ら命を絶ったのか、そこが気になって仕方がない！！
- 市子に歪んだ愛を抱いた北は、真のヒーローになるべく自ら命を絶った。
- 小泉殺害の目撃者＆共犯者であり、ストーカーの如く付きまとう北を疎ましく思った市子が、自分と心中したと見せかけて冬子もろとも殺害した。
筆者は最初、北くんは「川辺のヒーローになる」という夢を叶えたんだな〜と思いました。
しかし再度彼の行動や言動をまとめると、彼はきっと市子のために命を捨てるんじゃなくて（そんな勇気は無さそう）「川辺は俺がいなきゃダメなんだ！長谷川なんかより、共犯者の俺が守って一緒に生きて行くぞ！」という、やはりストーカー的な思い込み・思い上がりがあり、そんな自分に酔っているように感じ取れます。
残念ながら、市子は彼の想いを利用しただけであり、完全に彼の片思いだった事は誰の目にも明らか。
そうなると市子があまりにも悪女に思えますが、北くんも「悪魔やで」って言っていましたね。
しかもその瞬間市子は「へへっ」と笑っています…。見返してみると怖い！！
という事から、どのようにしたのかは不明ですが、北を葬ったのも市子だと思います。
でも、きっと後藤刑事はそれを見抜くと思います。プロの目は誤魔化せないはず。
そして北を演じた森永悠希さん。市子に惹かれて行く様がリアルで、本当にお見事でした！！
見終えたあとは市子の事だけでなく、北の事や長谷川の事も考えてしまう！
ダークで、儚くて、美しくて、風刺が効いててエモくて。とても不思議な余韻を残す作品でした。
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