2025年11月21日公開の映画『TOKYOタクシー』は、山田洋次監督による個人タクシー運転手・宇佐美浩二(演:木村拓哉)が、85歳のマダム・高野すみれ(演:倍賞千恵子)を東京から横浜の高齢者施設まで送る一日を描くヒューマンドラマです。東京のさまざまな場所を寄り道しながら走るタクシーの車内で、すみれは自らの壮絶な人生を語り始め、宇佐美と心を通わせていきます。
TOKYOタクシー
- 未体験
- 5
- 感情移入
- 4
- 再鑑賞
- 3
- 予測不可
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- サウンド
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木村拓哉、倍賞千恵子らの演技がリアル!ちょっとした掛け合いでも感情が伝わってきた!東京と横浜の街並みを楽しめる作品
評価は年間100作品以上を鑑賞する執筆者こでぃもの実体験をもとにしています。
『TOKYOタクシー』は人気?どんな人が観ている?

日曜の映画館の中くらいのシアターにてお客さんはそこそこ入っている感じでした。観客層は高齢の人を中心とした大人世代が主でしたね。友人どうしやパートナーと観に来た人が多いようでした。
口コミとしては「胸の奥がじんわり動く」というような、会話の温度感とヒューマンドラマが良かったとのこと。観た人は自然と物語の続きを話し合いたくなるような共感もあるようで納得です。
タクシーの後部座席でかわされるさりげない会話が、役者の演技と相まってリアルなのが人気の理由の一つ。そして、柴又の細い路地からスカイツリー、東京タワー、浅草などの名所、そしてみなとみらいの夕暮れがゆっくり流れていく映像美も心に残るでしょう。
以下より重要なネタバレを含みます。
『TOKYOタクシー』をネタバレありで解説!
宇佐美とタクシー
個人タクシーの運転手である宇佐美は、夜通し働いたあと、妻と中学生の娘と一緒に朝食をとろうとしていました。娘は音楽専門の高等学校への推薦入試の話が出ており、受かった場合は年内に100万円ほど用意する必要がある…宇佐美は娘の夢を応援したい一心もあったことから喜びつつも、お金の不安を覚えます。妻からも車や家の更新にお金がかかると言われますが、宇佐美はいったん眠りにつきました。
少し眠ったところで、同業のタクシー運転手から電話が入ります。運転手は腰を痛めてしまい、葛飾の柴又に「高野すみれ」という女性を迎えに行けないとのこと。代行を頼まれた宇佐美はお金を工面したいとも考え、午後1時にすみれを迎えに行くことにします。
時間に待ち合わせ場所に到着すると、すみれのそばに一人の男もいました。宇佐美は荷物を積め、男はすみれを見送ります。すみれを乗せてタクシーを走らせると、行先はもともとお願いしていた運転手に告げてあると言われた宇佐美。しかたなく頭を下げ、行き先を聞くと葉山の高齢者施設に向かっているとわかります。すみれは施設に向かう前に「東京を見て回りたい」と言い出しました。

冒頭の朝食シーンは、すごく“ふつうの家”の空気がして好きでした。まだ外が少し暗い時間帯の光や、食卓の生活感のある小物がちゃんと映っていて、宇佐美の疲れと家族のあたたかさが同時に伝わってきます。
80歳を越えるすみれは元気そうに見えましたね。すこし、とっつきにくい感じもありますが、宇佐美に対して「もっと愛想良くしたら?」と言うほどです。宇佐美も無愛想に対応していたのが印象に残ります。
すみれ
宇佐美は遠回りになることを気にしつつも、すみれの希望どおりに東京の街を回ることにします。言問橋に到着すると、すみれは幼い頃に父親を戦争で亡くしたことを話しました。その後、タクシーを走らせながら、すみれは若かった頃の話を宇佐美に聞かせます。
すみれの初恋の相手は在日朝鮮人の男性で、二人のあいだには子どもができました。しかし、彼は子どもの存在を知らないまま本国へ帰ってしまいます。生まれた息子は勇(いさむ)と名づけられ、すみれは母親の喫茶店で働きながら勇を育てたとのことでした。
その後、すみれは小川と恋をして結婚。しかし、小川は「勇を自分の子どもとして可愛がる」という約束に反して、勇を疎ましく思うようになった…勇は小川から邪険にされるだけでなく、やがて虐待まで受けるようになります。
すみれは、母親から勇が虐待されている事実を聞かされ、ある決意をします。ある晩、勇を母親に預け、高温に熱した油を用意。睡眠薬を入れた酒を小川に飲ませ、眠り込んだところで熱した油を小川の下半身に注いだ…そこまで話を聞いた宇佐美は、あまりの内容に驚きを隠せませんでした。そして、すみれは当時の裁判で「殺人未遂」として扱われ、9年の懲役が言い渡されたと語りました。

東京の街並みを見て回るようなシーンから、車内の会話シーンまで温かみを感じるシーンが多かったですね。一方で、すみれの過去は衝撃的。子どもの虐待、殺人未遂といった重いテーマは昭和ならではの時代背景を思わせました。
タクシーで銀杏並木を通りながら、すみれが「なんてことをしてしまったのだ」と嘆くのも印象に残ります。
横浜へ
その後、宇佐美はすみれに尋ねられて、自分と妻との馴れ初めを話したり、すみれの希望する場所を巡ります。横浜に向けて丸子橋を経由し、みなとみらいの夜景が見えるあたりを通過。その道中で、宇佐美は勇のことを聞くとすみれは涙ながらに答えます。
すみれが刑務所に入っているあいだ、中学生になっていた勇はバイク事故で亡くなってしまった…宇佐美はショックを受けつつも、「それでも生きていたから、いまこの横浜のみなとみらいの景色を見ることができている」と、すみれを励ますような言葉をかけます。すみれもまた、「生きていたから、こうして運転手さんに会えた」と実感をこめて答えました。
途中で高齢者施設から電話が入り「17時までに来るはずだったのに到着していない」と苦言を呈されます。電話を代わった宇佐美は、「20時までに着く」と伝えました。夕食の時間には間に合わないことがわかり、宇佐美はすみれを食事に誘って横浜へ。夕飯をとった後、宇佐美は娘から頼まれていたシュークリームも購入します。食事とシュークリーム代は、すみれが「ごちそうさせて」と支払いました。
再びタクシーに乗って葉山の高齢者施設に到着。すみれは夜の静かな施設周辺を見て、昼間に来たときの印象との違いに動揺します。タクシーを降りる際、すみれは「今日は横浜のホテルに泊まりたい」と宇佐美に打ち明けますが、宇佐美は「それはわがままだ」と強い口調で諭しました。

すみれが宇佐美の娘について知ったり、アメリカでネイルアーティストを学んで仕事にしたり…会話を重ねるごとに宇佐美と信頼関係を築いていくようでした。
ベイブリッジから見る横浜のみなとみらいと夕焼けの組み合わせはステキでしたね。景色と合わせてすみれが生きていて良かったと思えるワンシーンとなりました。
すみれの最期まで残りわずかであるという雰囲気を、一日の終わりに差し掛かる夕方と合わせているのかもと感じる演出でした。
みだし
すみれは謝りながらタクシーを降り、施設の中へ…入口の扉が閉まったあと、すみれはタクシー料金を支払っていなかったことに気づきますが、宇佐美は「今度は妻と一緒にここに来る」と約束します。翌朝、宇佐美は妻から1日分のタクシー料金を受け取らなかったことを怪訝に思われることに…一方、娘はシュークリームを嬉しそうに食べるのでした。
5日後、宇佐美は妻と一緒にすみれのもとへ。職員はその来訪に驚いた様子を見せます。なんと、すみれはつい先日、心臓発作で亡くなっていた…宇佐美は動揺しながら、すみれが使っていた部屋を訪ねました。
その後、すみれの葬式が行われ、宇佐美の家族も参列。その場で、司法書士の男に声をかけられます。男は、すみれが家を出るときに手伝っていた人物でした。司法書士は、すみれから預かっていた手紙があると伝え、宇佐美は彼の事務所で内容を確認。手紙(遺言状)には、「とても楽しい一日だった。人生の中でも良い一日だった」と綴られていました。
そして、すみれがこれまでの仕事で貯めたお金や、家を売って得たお金などが残っており、「自分にはもう必要ないから、その大切な体験ごと宇佐美に託す」と書かれていました。「私には必要のないお金だけれど、あなたには必要でしょう」と。宇佐美の妻もその内容に驚き、司法書士が見守る中で、物語は静かに終わっていきます。

施設に近付くにつれ、夜の静けさが記憶に残りましたね。真っ暗な道と、ぽつんと立つ建物の明かりの少なさが、「ここから先は人生の終着駅である」とすみれが不安に思うのと重なって見えました。
すみれが「横浜のホテルに泊まりたい」という一言は、わがままというより「もう少し生きたい」という思いに感じましたが…宇佐美の公開に繋がってしまうのは切なかったです。
宇佐美宛の手紙には彼の家族と会えなかったのは残念とも書かれていましたが、「楽しい一日だった」「あなたにこそ必要なお金だと思う」と綴られている方が印象的です。心温まる物語の終わりは余韻を感じさせました。
『TOKYOタクシー』に関連する作品ならこちらもオススメ!
『TOKYOタクシー』に関連する人生や生きることの終わりをテーマにした以下の2作品もおすすめ!
お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方
『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』は、香月秀之が監督を務め、水野勝と剛力彩芽が出演するハートフルコメディです。
物語の起点となるのは、介護士として働く青年・菅野涼太(演:水野勝)が、地域の高齢者夫婦との関わりを通して「終活」という言葉に初めて向き合う場面です。涼太が橋爪功、高畑淳子の演じる中年夫婦に出会い、人生後半をどう生きるかに迷う家族も描かれます。
エンディングノートの書き方、身の回りの整理、夫婦の“先の話”など、人生に向き合う作業に寄り添うような展開が特徴です。

前向きに老後と向き合う家族のコメディで、観終わったあとに「自分の親ともこういう話をしてみようかな」と会話が生まれるタイプの作品です。
テーマにあるのは、「老いをどう受け入れるか」「家族の形をどう更新していくか」という現代的な悩み。それらが温かさとユーモアのバランスで描かれています。
涼太がシニア世代の声に耳を傾ける姿が何度も描かれたり、夫婦がエンディングノートを前にお互いの本音を少しずつ語り合ったりするのも見どころですね。全体の雰囲気は明るいのに、どこか切なさが漂う感じは見る人に無理なく“人生の終わり”を考えるきっかけを差し出してくれるでしょう。
作品を観終えたあと、「あなたなら自分の終活、いつ誰と話し始めますか?」と問いかけたくなる感じは、映画『TOKYOタクシー』と響き合うからおすすめです。
老後の資金がありません!
『老後の資金がありません!』は、前田哲が監督を務め、天海祐希が主演を務める家族コメディです。
主婦・後藤篤子(演:天海祐希)が「堅実に貯金してきたはずの老後資金が、突然の出費で一気に消える」という事態に直面するところから物語は始まります。篤子は夫・章(演:松重豊)と娘・まゆみ(演:新川優愛)と暮らし、長年節約しながら“老後は安心して暮らせるはず”と信じていました。
しかし、娘の派手な結婚式から夫の失業、葬儀代や実母の浪費といった出来事が連続で発生!老後に備えた貯金を守りつつ家族を支えられるのか見守っていく作品です。

家族の“お金の不安”をコミカルに描くヒューマンドラマで、観たあとに「うちの家計も他人事じゃないね」と話したくなる作品です。テーマには「老後への備え」「家族の責任」「想定外の出費にどう向き合うか」といった現代的な悩みが挙げられます。
笑って観られるのに、ふと胸がきゅっとする瞬間があるのも見どころの一つ。篤子が家族の前で本音をこぼす場面や、現実を突きつけられたときの沈黙は、とてもリアリティがありますよ。
全体の雰囲気は明るくテンポが良い一方で、「家族の本音」に触れる瞬間はじんわりと切なく、笑いと現実感が交互に押し寄せる構成になっています。
観終わったあと、「もし老後の資金が突然なくなったら、自分は何を優先するだろう?」と問いかけたくなるはず。映画『TOKYOタクシー』とは違った視点で家族のお金の問題と向き合うテーマを楽しめるでしょう。
