2024年11月29日に公開された映画『正体』
染井為人によるベストセラー小説を原作とした、日本のサスペンスムービー。
凶悪な殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑を言い渡された男が脱走する。
様々な街に潜伏・逃走する彼の素顔とは。
なぜ彼は逃げ続けるのかー。
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なぜか逃げる作品に惹かれてしまうbeersyです!
第48回日本アカデミー賞、12部門13賞を獲得した本作。
「鏑木慶一」という1人の男性にとにかく感情移入してしまう…!
この記事では、映画『正体』を鑑賞した筆者の感想やあらすじ、ネタバレ解説をご紹介いたします!
『正体』の評価&感想
- 感動度
- 5
- 脳トレ度
- 4
- 再鑑賞度
- 4
- サプライズ度
- 4
- 話題性
- 5
逃走系の作品は洋画でも多いですが、本作は特に感動的で、心を打たれる作品です。
登場人物一人一人の心の揺れ動きや、鏑木が必死で逃げる際の緊張感、刑事・又貫の葛藤。
そして「冤罪」の恐ろしさが濃く描かれています。
主演の横浜流星さんの圧巻の演技、刑事役の山田孝之さんの汗が滲み出る演技。
豪華キャスト陣にも惚れ惚れしました。(松重豊さんは井之頭五郎(孤独のグルメ)のイメージが強いですが、やはり強面の演技もスゴイ!)
筆者は、原作の小説、ドラマ、映画を全て見ましたが、それぞれどの作品も魅力的。
結末の相違もあるので、気になる方はぜひ読んでみてください!
ちなみに、原作者の染井為人さんは「原作を読んで欲しいです。その方が納得出来るはず」と仰っていますよ。
インタビューを読むとさらに面白い↓ネタバレが少しだけあるので注意!
以下より重要なネタバレを含みます。
『正体』の主要キャスト
※下の方にネタバレキャストあり
- 鏑木慶一/横浜流星(容姿端麗、料理好きで児童養護施設育ち。一家惨殺事件の容疑者となる)
周辺人物
- 安藤沙耶香/吉岡里帆(メディア会社「メディアトレンダーズ」の社員で、鏑木の正体を知らずに雇う。正義感が強い)
- 安藤淳二/田中哲治(沙耶香の父で弁護士。痴漢の冤罪に巻き込まれてしまう)
- 野々村和也/森本慎太郎(大阪の日雇い労働者。タトゥーだらけだが情に熱い)
- 酒井舞/山田杏奈(介護施設「アオバ」の職員。東京に出る事を夢見ている)
- 井尾由子/原日出子(殺害された井尾洋輔の母。目の前で家族が殺されるのを見てしまい、錯乱状態に陥り介護施設へ入所)
- 笹原浩子/西田尚美(由子の妹。気が強く、姉の事を献身的に世話している)
警察
- 又貫征吾/山田孝之(鏑木を追う警視庁の刑事。忠誠心があり矢面に立つ)
- 川田誠一/松重豊(警視庁 刑事部長。保身しか考えておらず、又貫に様々な指示をする)
- 井澄正平/前田公輝(又貫の部下。まだ若く、的が外れた事を言う)
ネタバレ人物
- 足利清人/山中崇(後に起こる猟奇的殺人の犯人。実は…)
『正体』のネタバレ
決死の逃走
1人の死刑囚が命懸けで脱獄する。
それは、東村山市に住む井尾洋輔一家3人(井尾夫婦と娘)を殺害した容疑で逮捕されていた、鏑木慶一という青年だった。
彼は18歳の時、2019年に一家を鎌で惨殺し、隣人からの通報で駆けつけた警察官に現行犯逮捕されたが、21歳で脱走。
刑事の又貫征吾は、警視庁・刑事部長の川田に「大変な失態ですよ」と叱られながら、詰めかけた報道陣に向かって謝罪会見をした。
ーー
脱走後118日目、大阪住之江区。
鏑木は髪を伸ばし分厚いメガネを付けて変装し、建設現場で住み込みの日雇い労働者として働いていた。
そこは過酷な現場で、労働者達は現場責任者の金子(演/駿河太郎)に、厳しく叱責されながら肉体労働をしている。
鏑木は「遠藤」と名乗りほぼ喋らず生活していたが、その風貌から同僚達には「ベンゾー」と呼ばれていた。
ある時、共に働く野々村和也が風呂に行くと、いつも最後に入るベンゾーがいて少し話をする。
和也はヤクザに借金をしており身体中にタトゥーが入っているが、ベンゾーの背中には大きなヤケドの跡があった。
ーー
現場で事故が起こり、年老いた同僚を助けた和也が大怪我を負う。
しかし会社は何もせず、治療費などは和也が自分で支払う事になり、同僚達はため息を付いて「カンパをしよう」などと話していた。
すると突然、ベンゾーが「労働基準監督署に申請すれば、労災保険が出ると思います」と提案。
周りは驚いたが一生懸命調べ、和也とベンゾーの2人で、金子に直談判しに行った。
しかし金子は一切金を出す気は無く「嫌なら辞めろ!」と言って突き放す。
寮の部屋に戻った和也は悲嘆に暮れるが、ベンゾーから「いくらあったら気持ちが落ち着きますか?」と聞かれ、「10万円かな」と呟いた。
するとベンゾーが再度金子の元へ行き「労働基準法違反です。会社が拒否するなら、個人でも労災保険を国に提出出来ますよ」と言う。
金子が逆上し殴りかかると、ベンゾーは「間違ってますよ、あなたたち…」と言って睨みつけた。
和也が逃走中の鏑木慶一の報道を観ていると、部屋にベンゾーが来て「2万円しかもらえませんでした」と言って金子から取った金を差し出す。
和也は驚きつつも、鼻血を出したベンゾーの顔を見て「お前も殴られたんだろ?」と言って1万円を返した。
ーー
和也はベンゾーを誘い、彼の部屋で一緒に酒を飲む。
口数の少ないベンゾーは不気味だったが、和也は「俺が友達になってやるよ!」と明るく笑い、温かい時間が流れた。
しかし、ベンゾーが右手でうまくお箸を持てない=左利きである事、左頬のホクロ、そして背中のヤケド跡がある事から、彼が先ほどニュースで観た鏑木慶一だと気付いてしまう。(ニュースの中で鏑木の特徴が映されていた)
そして何食わぬ顔をしてトイレへ行き、警察に通報すると、それに気付いたベンゾーは寮から逃走した。
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鏑木慶一の逃走シーン、痛そう寒そうで心苦しくなりました。
逃亡中の彼にとって、和也は大きな存在となった事でしょう。
この別れ方はかなり辛かったはず。それでも彼を突き動かすのは、生への執着なのでしょうか。
それにしても、金子を睨む鏑木(横浜流星さん)の目ヂカラが凄すぎる!!
出会い
逃走から180日目、東京都新宿区。
東京のメディア会社「メディアトレンダーズ」の社員である安藤沙耶香は、父・淳二の裁判の傍聴席にいた。
淳二は敏腕弁護士だったが、痴漢の罪で逮捕されている。
しかしそれは冤罪であり、沙耶香は父を励ましていたが、週刊誌の記者・黒島(演/田島亮)にしつこく詰め寄られた淳二は「これだけ多くの人に攻撃されたら、やったと言いたくなる人の気持ちが分かるよ…」と憔悴しきっていた。
そんな中、沙耶香はフリーのライターの那須隆士と会い、給料を渡す。
那須は金髪・長髪の男性でカラコンとマスクをしていたが、その正体は変装した鏑木だった。
彼は文才があり、沙耶香は「那須くん、記事の才能があるよ。もううちの専属になってくれたらいいのに」と称える。
その後、2人は偶然街中で会った事から飲みに行き、距離が縮まった。
沙耶香は宿無しの彼を自宅に住まわせる事になり、那須は得意の手料理を振る舞うようになる。
ーー
又貫と井澄は、鏑木が育った児童養護施設へ。
そこはすでに閉園されていたが、元園長の野口正恵(演/木野花)は、2人に鏑木がどういう子だったかを伝え「ねぇ刑事さん。あなた達は本当に慶一がやっと思ってるのよね?神に誓って言えるのよね?…あなたたちは奪ったのよ?慶一の全てを」と言って又貫を見る。
又貫は、何も言わずに正恵を真っ直ぐ見つめた。
ーー
沙耶香は、次第に那須の正体に気付き始める。
そんな中、淳二は裁判で有罪となってしまい「俺の声はもう誰にも届かないんだよ」と落ち込む。
沙耶香は「今はダメでも、諦めなかったら必ず届くから」と励ました。
その後家に帰ると、張り込んでいた黒島に「お父さん残念でしたねぇ。でも安藤さん、もっとすごいの持ってるじゃないですか、鏑木さんなら先ほど出かけましたよ」と言われる。
彼は那須に扮した鏑木の姿を目撃していたのだ。
沙耶香は「私は一人暮らしです」と答え、家に入ると「鏑木くん、逃げて」と言った。
ほどなくして、黒島から通報を受けた又貫が部下達を連れて沙耶香の部屋へ。
彼女の承諾を得て部屋の中を探し回ったが、鏑木はいなかった。
又貫が部屋を出ると、沙耶香は風呂の換気口に潜んでいた鏑木を出して「私には本当の事を話して」と言うと、彼は「僕にはやらなきゃいけない事があるんです」と言った。
すると、またしても又貫が現れ強引に部屋に入り込み、ついに鏑木と対峙する。
激しい揉み合いの末、鏑木はベランダから飛び降り逃走した。
ーー
又貫は、彼が脱走する1170日前…捜査をしていた時の事を思い出す。
事件の唯一の生存者で、目撃者の井尾由子(井尾洋輔の母)はパニックに陥っていた。
川田に「目撃者は証言出来そうにありません。現場にいた高校生は、犯人を見たと言って容疑を否認している状態です」と報告する。
すると川田は面倒臭そうに「他に証拠が無いならその高校生で決まりですね。18歳?ちょうど良いじゃないですか、もうすぐ18歳の重犯罪はは成人と同じになる。その高校生に極刑を与えておけば、これからの未成年者への抑止力になりますよ」と言った。
又貫は何も言えず、まだ混乱している由子に「あなたは、息子さん達を殺した鏑木を見ましたね?」としつこく聞いて誘導尋問し、それを目撃証言として証拠にする。
鏑木は何度も「僕はやってない!」と叫んだが、無慈悲にも裁判では死刑が言い渡された。
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沙耶香さん、あまり知らない男性を家に入れて仕事行くなんて不用心だなぁと思いましたが、彼が入稿する文章から滲み出る人柄や、一度飲んで話しただけで人間性を見抜いたのでしょうね。
鏑木が泣いてしまうのもわかる。そして焼き鳥美味しいよね…。
又貫はしんどい立場に置かれています。松重さん演じる川田、見事なヒール役ですね!
鏑木の本当の目的
逃亡から332日目、東京都西東京市。
一家4人が鎌で惨殺された。
それは、鏑木が起こしたとされる東村山の事件と酷似しており、模倣かと思われたが、拘束された被疑者の足利清人は「アハハハ!模倣じゃありませんよ。刑事さん、ケーキが食べたいなぁ」と供述している。
鏑木は、足利清人のニュースを見て愕然としていた。
ーー
逃亡から334日目、長野県諏訪市。
高校を卒業した酒井舞は、心配する両親をよそに東京の美容学校に通っていたが、現在は地元に戻り介護施設「アオバ」で働いている。
舞は、同僚の桜井翔司に憧れていたが、それは髪をバッサリ切り、清潔感に溢れた青年に扮する鏑木だった。
彼は、職員が敬遠する2階の井尾由子を担当していた。
舞はアプローチして、桜井に「この辺りは地元なんです。観光案内しますよ」と無邪気にはしゃぐ。
彼は「ありがとうございます」と言って優しく微笑んだ。
ーー
紗耶香は、淳二の弁護士事務所に和也を呼び「彼はやっていないと思うんです」と伝える。
実は、無実の罪を着せられた淳二も鏑木の事を他人事と思えず、弁護士仲間に協力を仰ぎ捜査記録を集めていたのだ。
和也も「俺を助けてくれたし、いいヤツでした。何か手伝える事があったら言ってください」と言って、協力する事になった。
一方又貫は、足利が東村山市に住んでいた事を知る。
そして鏑木の足取りを見て、彼が資金調達のために潜伏した大阪から、足利を調べるために東京に戻り、由子の証言を取ろうとしている事に気付いた。
又貫は、由子の妹・笹原浩子が働いていた水産加工工場へ行き、工場長から、浩子が沙耶香の上司である後藤(演/宇野祥平)に「事件解決のために協力を」と詰め寄られ、それが嫌で退職したと聞く。
そして同時期に「久間」という青年がいた事を知った。
それは目を一重にメイクした鏑木であり、彼は浩子に接触した上、後藤には正体を明かし「全てが終わったら、必ず安藤さんに謝りに行きます」と伝えていたのだった。
ーー
舞が桜井が映る動画をSNSにアップしてしまい、「鏑木ではないか」とコメントが付き炎上する。
又貫はそれを見てすぐにアオバに急行。
その頃、鏑木はボイスレコーダーを持って、由子に「お願いします、あの時何があったか、思い出してください!僕には時間がないんです!」と必死に訴えていた。
そこへ舞が居合わせ「桜井さん…」と呟くと、外にはすでに又貫の車が。
鏑木は舞に「お願いがあります」と言って、彼女にナイフを突きつけ2階のベランダに出た。
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ドラマ版では、鏑木を知る人物がたくさん集まってかなりの胸アツ展開となります。
映画では割とあっさりというか、原作を知っていると少し物足りない気がしてしまいました。
それでも、鏑木の人柄に触れた人達がこうして集まって、ビラ配りをするなんて中々無い事ですよね!
そして真犯人の足利清人…。演じている山中崇さん、不気味過ぎる!役作りが完璧です。
真実
又貫が「無駄な抵抗はするな」と言うと、鏑木は「あなたは、本当の犯人が誰なのかを分かっているはずです!」と答え部屋に戻る。
そして舞にライブ配信をしてもらい、自分と由子を撮らせた。
鏑木がなんとか由子に思い出してもらおうと必死に問いかけると、徐々に由子の記憶が蘇る。
ーー
あの日、高校生の鏑木が歩いていると、一軒の民家から悲鳴が聞こえて来たので様子を見に行く。
すると、血の海の中家族3人が倒れており、足利が振り向いて笑っていた。
すぐそばには、座り込んで怯えている由子の姿があり、瀕死の状態の洋輔が自分の背中に刺さっている釜を指差した。
鏑木が慌ててその斧を抜くと、血飛沫が飛び由子が悲鳴をあげる。
ちょうどそこに、駆けつけた警官が現れ現行犯逮捕となった。
ーー
全てを思い出した由子は、鏑木の頬に手を当て「あなたは…」と呟き、真実を話し始めようと息を整える。
紗耶香や和也を始め、日本中の人々が舞のSNSを見守った。
すると、痺れを切らした川田に命じられ、又貫が突入を指示。
追い詰められた鏑木はナイフを振り回して逃げ惑い、銃を向けた又貫に向かって行く。
すると鏑木は、肩を撃ち抜かれ倒れた。
撃ったのは又貫ではなく、隣にいた井澄だった。
ーー
ーー
淳二の法律事務所に、紗耶香、和也、舞、後藤などが集まる。
鏑木に関係した者達が彼の人柄について語り合い、街頭で署名運動を始めた。
一方川田は、東村山の事件の真犯人は足利だという証拠が続々と集まっている事で、これは誤認逮捕になると危機感を持つ。
そして又貫に「ここまで来たら君だけの責任ではないです。鏑木の逃走劇は警察の大失態だが、これからの捜査手法を強化するための礎になる。東村山一家殺人事件の犯人は、鏑木慶一。本件について、真実は重要ではないから、君はもう静観していなさい」と言って、誤認逮捕は認めない姿勢を貫いた。
その後又貫は、獄中の鏑木に会いに行き「ひとつ聞きたい事がある。なぜ逃げたんだ?」と問いかける。
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又貫、川田達は、再度記者会見を行った。
しかしそこで又貫は「東村山事件の被疑者・鏑木慶一に関しては、誤認逮捕の可能性があります。全ての責任は私にあり、再度適正な捜査を行い会見を行います!」と発表。
隣に座る川田の表情が曇り、記者達からはどよめきが起こった。
そのニュースが街頭テレビに映り、ビラを配っていた紗耶香達は涙を流しながら喜ぶ。
そして逃亡から819日目、裁判所では、弁護人の淳二と共に鏑木が入廷した。
傍聴席を見渡すと、紗耶香や和也、舞などの支援者達、そして又貫の姿が。
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又貫が鏑木に、どうして逃げたのかと聞いた時。
鏑木は少し微笑みながら「信じたかったんです…この世界を。正しい事を、正しいって主張出来れば、信じてくれる人がいるって。外に出てから、生まれて初めて仕事をして、始めてお酒を飲んで友達が出来て…人を好きになりました。生きてて良かった、と思いました。そして、もっと生きたいって思いました」と、真っ直ぐに答えていた。
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鏑木に無罪判決が言い渡される。
傍聴席からは大きな拍手が贈られ、鏑木は涙を流して目を閉じた。
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ハッピーエンドで本当に良かった…!!
冤罪ものは胸糞な場面が多くしんどいですが、本作はそういった場面が少なく楽しめました。
今回、又貫刑事の視点も多く描かれていたので、原作・ドラマとは一味違った「正体」に仕上がっていた気がします。
流石はアカデミー賞受賞作品。圧巻の映画でした。
『正体』が好きな人にオススメの映画
映画『正体』が好きな人にオススメの、冤罪をテーマにした作品をピックアップ。
ゴールデンスランバー
人気作家・伊坂幸太郎さんの小説を映画化した作品。
堺雅人さんが主演、竹内直子さんがヒロインの映画でしたが、2025年2月現在配信はされていません…面白いのに…。
筆者はこちらも小説を持っています!
犯人に仕立て上げられ、逃げ惑う青柳を見ていると、手に汗握って熱くなりますよ。