2025年10月31日公開の映画『盤上の向日葵』監督・脚本は熊澤尚人、原作は柚月裕子による同名小説。主演は坂口健太郎。共演に渡辺謙、佐々木蔵之介、高杉真宙、小日向文世、柄本明らが名を連ねます。物語は、山中で発見された白骨遺体と珍しい将棋駒の捜査から始まります。上条桂介(演:坂口健太郎)と伝説の真剣師・東明重慶(演:渡辺謙)の因縁が徐々に明かされていきます。
盤上の向日葵
- 未体験
- 5
- 感情移入
- 5
- 再鑑賞
- 3
- 予測不可
- 4
- サウンド
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天才棋士×真剣師による、将棋が導くミステリー映画とも言える作品!静かな駒音と役者の表情が見どころ!
評価は年間100作品以上を鑑賞する執筆者こでぃもの実体験をもとにしています。
『盤上の向日葵』は人気?どんな人が観ている?

私が見た映画館では、30代以上の観客が多かったですよ。坂口健太郎と渡辺謙が出演することもあり、ファンも多かったのではと思いました。
真剣師の「破滅を覚悟した情熱」を目の当たりにできたり、将棋盤を挟む人たちの沈黙や駒を打つ音などの演出が印象的。派手な展開ではなく、静かな緊張のなかで人の心が壊れていく過程を描く人間ドラマも踏まえて、じっくり映画館で観るのがおすすめです。
人生の選択に迷ったり、誰かとの距離を見つめ直したりしたいときに観るのも良いかもしれませんね。
以下より重要なネタバレを含みます。
『盤上の向日葵』をネタバレありで解説!
白骨遺体
山の中から身元不明の白骨遺体が発見され、その手には初代・菊水月作とされる希少な将棋の駒がありました。若手刑事・佐野直也と上司の石破剛志は、いくつかの菊水月の所有者を周り、上条桂介が駒を所有していることを突き止めました。そこから上条の子供時代が浮かび上がっていきます。
上条は、父・庸一のもとで虐待同然の生活を強いられていた…そんな上条は新聞配達をし、配達中に捨てられた将棋の本を見つけます。その家の主は元校長・唐沢光一朗。唐沢は上条について知り、自宅に招くようになりました。唐沢の妻・美子とともに上条を温かく迎え入れ、将棋を指して過ごします。
やがて上条は、唐沢も敵わないほどの腕を身につけます。唐沢は「プロを目指さないか?」と背中を押しますが、父・庸一は激怒。「自分を捨てるのか」と怒鳴り、上条は父の姿を見て断念しました。数年後、東京大学に進学した上条は、病に倒れた唐沢を見舞い、別れ際に彼から初代・菊水月の駒を託されます。
-上条のことを美子から聞いた刑事たちはさらに調べを進めました。

上条の子供の頃の姿は涙無くして見れませんでしたね。映画の終盤の回想シーンにもありましたが、庸一が飴玉や将棋をくれたときの上条の笑顔が忘れられません。彼にとっては「父親」となる存在でしたが…賭け事ばかりの文無しの庸一がもう少し変わってくれていたらと思わずにいられませんでした。
唐沢は上条の背中にあざがあるのを知ったり、彼の腕前を見込んだり、「育ての親」という雰囲気があって良かったです。
東明と上条
大学時代、上条は将棋の店で伝説の真剣師・東明重慶と出会います。雑誌で彼の腕を知っていた上条は、勝負してみたいと思いました。東明は上条の腕を見つつ、真剣師の勝負を見せるとのこと。東明は借金を抱えながらも種銭を用意し、東北一の真剣師・兼埼元治との五番勝負に挑みます。
しかし、資金繰りに困った東明は上条の菊水月の駒を質に入れた…最終的に東明は勝利しましたが、菊水月の駒を買い戻さず金だけ持ち逃げしたのです。東明の裏切りに失望しながらも、上条は駒を取り戻すために働いて駒を買い戻しました。
その後、上条は職に就いた後、ひまわり畑のある農家で働き始めます。ブドウ畑を手伝いながら奈津子と婚約。地域のイベントを企画したりして穏やかな日々を送っていましたが…そこに父・庸一が姿を現しました。金を無心する庸一ですが、次第にエスカレートしていき、上条は追い詰められていきまます。

渡辺謙演じる東明の迫力が見どころでしたね。真剣師として勝負に挑む姿が特に印象的です。将棋を指し続けるためには手段をえらばない…上条を騙すだけでなく、人殺しもするという気概が忘れられなさそうです。
ひまわり畑のある農家では上条が幸せを手にしたかと思われましたが、やはり彼にも将棋が無いと生きてはいけないと東明に問われるシーンは考えさせられました。
最期の勝負
上条の元に東明も訪ねてきます。東明を許せない上条でしたが、将棋の技を教えると言われて2人で過ごすようになりました。そうしたおり、執拗だった庸一に対して上条はついに1000万円を渡すことを決意。「もう二度と自分に関わるな」と念書を書かせようとしますが庸一は逃げました。
上条は彼につかみかかり、揉み合ううちに庸一の首を絞め始めます。その際に庸一は「お前は俺の息子じゃない」と言い始め、真実を知った上条は生きる気力を失いかけました。マンションの自室から身を投げようとした上条ですが、東明が将棋の駒を並べ始め、その音を聞いた上条は対面へ。その際に東明は「おまえに金をせびりに来てるやつを殺してやる」と言いました。
東明は庸一を殺して山中に埋め、町を見下ろせる場所で上条に最期の対局を申し出ます。「俺が勝ったら俺を殺せ」と言い、東明の勝利…ドスを持ってためらう上条に対し、東明は自ら刺されに行って息を引き取りました。上条は東明を埋める際に菊水月の駒を持たせたのです。
-刑事は捜査を続けて真相を知り、上条を逮捕することにします。
上条はプロになるべく勝ち続け、昇竜戦を迎えます。そこに刑事が現れ、上条は意を決したように前に進むのでした。

映画のラストで上条は窓を見て、ヒマワリが迎えていたようにも見えましたが…東明から生き抜けと言われたことを思い出し、踏みとどまったようでしたね。東明の最期を思うと、上条を活かすための勝負だったのかなとも思いました。
上条は庸一を殺してもらった際に「自分も人殺しだ」と言うシーンなど、上条演じる坂口健太郎の涙を流すシーンも心に残ります…。
『盤上の向日葵』に関連する作品ならこちらもオススメ!
『盤上の向日葵』に関連する作品として、囲碁やチェスがテーマとなる以下の2作品もおすすめ!
碁盤斬り
白石和彌監督が手がけた時代劇『碁盤斬り』は、草彅剛が主演を務め、清原果耶、中川大志、市村正親、小泉今日子、國村隼らが出演しています。
物語の舞台は江戸時代。冤罪により藩を追われ、娘と長屋で慎ましく暮らす浪人・柳田格之進(演:草彅剛)は、囲碁を通じて心の均衡を保ちながら、日々を静かに生きていました。彼は名誉を汚した元藩の上役たちの真実を知るために動き出し、心に抑えていた“復讐”の火が灯るストーリーが見どころ。武士としての誇りを取り戻そうとする男の決意を中心に展開していきます。

静かな激情が燃える人間ドラマで、「怒りをどう生き直すか」を問いかける作品です。映画『盤上の向日葵』とは違った生き様を体感できる映画とも言えますね。
「誇り」「赦し」「親子の絆」をテーマにしており、格之進がすべてを失ってなお碁盤に向かう姿には、武士というより一人の人間としての生き様も感じさせます。草彅剛による抑えた表情の奥にある感情を見てみてくださいね。
完全なるチェックメイト
エドワード・ズウィック監督による『完全なるチェックメイト』は、実在の天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの栄光と孤独を描いた伝記ドラマです。
主演のトビー・マグワイアが、繊細かつ狂気を帯びたフィッシャーを体現!共演にリーヴ・シュレイバー(演:ソ連の王者・ボリス・スパスキー役)、ピーター・サースガードが名を連ねます。
アメリカとソ連の対立があった冷戦時代の1970年代を舞台とし、二人のチェスの天才が国家の威信を背負って対峙するのが見どころ。世界王者決定戦“世紀の対局”に挑むシーンに到るまで、フィッシャーが周囲を翻弄し、彼自身を追い詰めていく様を描きます。

心理戦の緊張が続く知的サスペンス作品!「天才の孤独と狂気」を思わせ、「完璧主義」「孤立」「自己との闘い」をテーマにしているのが特徴です。
ボビー・フィッシャーが求める“絶対の勝利”の行方も気になりますよ。わずかな手の震え、相手の視線などに注目しながら、凍るような緊迫感が味わえることでしょう。そうした体験ができることや、自らの才能と孤独を賭けた戦いという点から、映画『盤上の向日葵』と響き合うことでしょう。
