1971年10月23日公開の映画『ベニスに死す』
作曲家が、疫病の蔓延するイタリア・ベニス(ベネチア)を訪れた際の出来事を、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティが美しく描いた名作です。映画の主人公のモデルは作曲家のグスタフ・マーラーで、作中ではマーラーのシンフォニーが印象的に使用されています。
この記事では、映画『ベニスに死す』で流れた音楽6曲をご紹介します。
『ベニスに死す』で流れる曲とは?
オープニングシーン
Gustav Mahler - Symphony No.5 in C-Sharp Minor: IV. Adagietto
オープニングシーンで流れた曲は、Gustav Mahlerの『Symphony No.5 in C-Sharp Minor: IV. Adagietto』です。
ボヘミア生まれのオーストリアの作曲家グスタフ・マーラーの『交響曲第5番』から第4楽章が使われています。この楽章はハープと弦楽器のみで演奏されるとても美しい曲で、別名「愛の楽章」とも呼ばれています。
マーラーは、指揮者としての活動が忙しく、夏休みに湖畔の別荘にこもり作曲をしていたそうです。「交響曲第5番」は1901年夏にスケッチされ、翌年1902年の夏に完成しました。完成するまでの一年の間に、マーラーは20歳年下のアルマと出会い結婚しています!
『ベニスに死す』のテーマ曲として使われており、映画中盤でグスタフがホテルを離れるシーン・駅で人が倒れるシーン・湖畔での回想シーン・グスタフの娘の棺が運ばれるシーン・そしてエンディングでも流れていました。
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ホテルのロビーで人々がくつろいでいるシーン
Franz Lehár - Die lustige Witwe / Act 3 “Lippen schweigen”
ホテルのロビーで人々がくつろいでいるシーンで流れた曲は、Franz Lehárの『Die lustige Witwe / Act 3 “Lippen schweigen”』です。
派手な帽子や真珠のネックレスなどで着飾った人々が談笑しているのを、グスタフが新聞を読みながら眺めているシーンで流れています。
この曲はオーストリア=ハンガリー帝国生まれの作曲家フランツ・レハールが作った喜歌劇『メリー・ウィドウ(原題:Die lustige Witwe)』(1905年ウィーン初演)の中の1曲です。
このオペレッタ(喜歌劇)は、人気のオペラ作品を数々生み出したフランスのオペラ台本作家アンリ・メイヤックの戯曲がもとになっています。この曲は、第3幕、ソプラノ歌手とテノール歌手による二重唱で「唇は語らずとも」というタイトルがついています。
アルフリートがピアノで演奏する曲
Gustav Mahler - Symphony No.4 in G Major: IV. Sehr behaglich
アルフリートがピアノで演奏する曲は、Gustav Mahlerの『Symphony No.4 in G Major: IV. Sehr behaglich』です。
グスタフとアルフリートが芸術論を戦わせているシーンで、アルフリートがピアノで演奏するのは、マーラーが1900年に完成した『交響曲第4番』の第4楽章冒頭の旋律です。
この第4楽章には、ドイツの民衆詩集『少年の魔法の角笛』の「天上の生活」が題材にされたソプラノ独唱が導入されています。天国の素晴らしさ、食べ物や音楽に溢れ、喜びに満ちた世界が描写された歌です。
ちなみに、アルフリートは、調性を脱し十二音技法を確立したオーストリアの作曲家アルノルト・シェーンベルクがモデルだと言われています。
グスタフがビーチで筆を走らせるシーン
Gustav Mahler - Symphony No.3 in D minor: IV. Sehr langsam. Misterioso
グスタフがビーチで筆を走らせるシーンで流れた曲は、Gustav Mahlerの『Symphony No.3 in D minor: IV. Sehr langsam. Misterioso』です。
グスタフがビーチで遊ぶタジオを眺め、筆を走らせるシーンからホテルで夕焼けを眺めるシーン、そして再びビーチでタジオを追うシーンで流れています。
マーラーが1895年から1896年にかけて作曲した『交響曲第3番、ニ短調』は、約100分の演奏時間を要するマーラー最長の作品で、かつては「世界最長の交響曲」としてギネスブックに掲載されていたそうです!
全部で6つの楽章からなり、このシーンでは第4楽章が使われています。この楽章には、ドイツの哲学者ニーチェの著作『ツァラトゥストラかく語りき』の第4部の詩を歌詞としたアルト独唱が導入されています。
美少年タジオがピアノで演奏する曲
Ludwig van Beethoven - Für Elise
美少年タジオがピアノで演奏する曲は、Ludwig van Beethovenの『Für Elise』です。
少年タジオは、『エリーゼのために』の冒頭を繰り返しピアノで演奏していました。シーンが切り替わり、売春宿でのシーンでは娼婦が演奏している設定でしたね。
ベートーヴェンが1810年に作曲した『Bagatelle No.25 in A minor (WoO 59, Bia 515) “For Elise”』が正式名称のピアノ曲で、『エリーゼのために』という通称で知られています。電話の着信音や保留音として使われたり、ピアノの発表会で演奏されたりと、日本でも知名度の高いピアノ曲です。
海辺で女性が歌を歌うシーン
Modest Mussorgsky - Songs and Dances of Death : No.1, Lullaby
海辺で女性が歌を歌うシーンで流れた曲は、Modest Mussorgskyの『Songs and Dances of Death : No.1, Lullaby』です。
すっかり人が減ってしまったビーチで、一人の女性がこの歌を歌っています。
この曲は、19世紀ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーが1875年に完成させた歌曲集『死の歌と踊り』の第1曲『子守歌』です。ムソルグスキーの友人で詩人のゴレニシチェフ・クトゥーゾフの詩がつかわれていて、病の幼児のところにやってきた「死」が子守歌を歌い、母親の抵抗むなしく幼児の命を奪っていくという内容が描かれています。ここではグスタフの死を暗示するように使われていましたね。