2023年2月20日に、第73回ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映された映画『インサイド』
美術品泥棒がペントハウスに閉じ込められた。
水もガスも出ないアートしか無い部屋で、彼はどんどん追い詰められて行くー。
ギリシャ・ドイツ・ベルギー・イギリス・スイス合作のクライム・スリラー。
- 主演:ウィレム・デフォー(『スパイダーマン』『プラトーン』)
- 監督:ヴァシリス・カツォーピス

めっきり美術館には行かなくなった美術学校卒のbeersyです!
美術品泥棒の映画が、ネトフリで解禁されたという事で視聴。
怪優・ウィレム・デフォーの、名演技を堪能しました。
この記事では、映画『インサイド』を鑑賞した筆者の感想やあらすじ、ネタバレ解説をご紹介いたします!
『インサイド』の評価&感想
- 感動度
- 3
- 脳トレ度
- 3
- 再鑑賞度
- 3
- サプライズ度
- 2
- 話題性
- 4
泥棒が絵を盗もうとしたら、高度なセキュリティによって部屋に閉じ込められ、仲間から見捨てられてしまった!
なのに水道やガスが止められており、空調も故障!
ある意味シンプルな「水が無い」という地獄のサバイバルが始まるのに、ペントハウス(マンション最上階の高級住戸)のため、高級家具や美術品、ハイテクな家電などが設置されており、画面の中は異質な空間となっています。
そんな極限状態に置かれた人間は、一体どうなってしまうのか?
この映画は、ノワール調のアーティスティックな画面と共に「究極のアート」について考えさせられるお話です。
そこかしこに伏線か!?と思わせるカットがあるのですが、回収はほぼ無し。笑
ただひたすらに、主演のウィレム・デフォーとアートを堪能する作品でした。(重要な登場人物もほぼいません)
ツッコミどころも満載、サバイバルなだけあって、まぁ吐き気のするカットもよく出て来ます。
好き嫌い・合う合わないが本当に分かれる映画でしょうね…。
それでも筆者は、なんだか妙にクセがあって、何年もウィレムと一緒に不気味な美術館に閉じ込められているような感覚になって、どんどん惹き込まれて行きました。
そしてラストはハッキリと描かれていないので、自分で考える・感じるしか無い!
また途中には一人語りシーン等があり、元気がない時に観ると眠くなると思います。
視聴する方は、意識を保てる時間にぜひ◎アートが好きな人には合うと思います!
以下より重要なネタバレを含みます。
『インサイド』のネタバレ
美術品に囲まれたペントハウス
絵画泥棒のニモは、仲間の指示に従いある富豪のペントハウスへ盗みに入る。
家主は長期出張で戻らず、家の中にはエゴン・シーレの絵画など多くのアートが飾られていた。
しかし、お目当ての肖像画がなく途中で断念。
脱出するためドアのセキュリティコードを入力したが、「システム誤作動」と言うアナウンスとともに警報機が鳴り響き、全ての出入り口が封鎖されてしまった。
仲間は「自分でなんとかしろ」とトランシーバーに返答しなくなり、ニモはまずうるさく鳴っているドアのシステムをいじる。
そして部屋中を探しやっとスピーカーを見つけて破壊したが、ドアのシステムも壊れてしまった。
ーー
ペントハウスの中にはハイテクな冷蔵庫も完備されていたが、中にはろくな食料がない上に、蛇口から水が出ない事に気付いた。
さらには空調も壊れ、温風が出始めると室温は33度まで上昇。
汗だくになりながら、木製のドアをナイフ一本で破壊しようとするが、そのドアの中は鉄板で守られていた。
飢えと乾きに絶望していたニモだったが、天窓から出られるのではないかと考える。
そこで、ありとあらゆるものを使って巨大な塔を作り始めたが、体力はすでに限界を超えていた。
しかし、冷蔵庫の中の霜を舐めフラフラになっていると、室内の家庭菜園のスプリンクラーが作動し、水分を摂取する事に成功する。
空調の設定も変わり冷房が付いて、なんとか生きる気力を取り戻し塔を完成させた。
ーー
室内には巨大なテレビが置かれており、そこにはマンション内の監視カメラの映像が見られるようになっている。
ニモは毎日見るうちに、コンシェルジュや清掃スタッフに名前を付けて呼びかけていた。
ある日、清掃の女の子「ジャスミン」が、ペントハウスの前を掃除している事に気付く。
必死で助けを求めるが、ジャスミンは音楽を聴きながら仕事をしており全く気付かなかった。
そしてニモは、毎日ひたすら天窓の枠を削り壊す作業を行う。

絶望的な状況に、観ているだけで苦しくなって来ました。
それでも生きよう、脱出しようと様々な事を思いつくニモは、一歩違えば芸術家になっていたのかもしれません。
しかし、なぜ監視カメラが観られるようになっているのか…?不気味な家ですね。
脱出への道
天窓の枠を削るとさらに枠があり、それはボルトでしっかりと固定されていた。
ニモは、椅子の足を分解してレンチ型を作りボルトを外そうとする。
木は脆く何度も壊れたが、何度も作り直して根気よく作業を続けた。
スプリンクラーの水をたくさんのボウルに溜め、それを濾過して飲料水に。
パスタを見つけて水に浸し、他の食材も調理して人間らしい生活を少しだけ取り戻した。
しかし、空調が今度は極冷風を出し続け、部屋の中は6度にまで下がる。
ニモは毛布にくるまりながら、孤独や飢えと闘っていた。
飾られている絵や壁に落書きをし、ジャスミンを観て寂しさを紛らわす。
ーー
ニモが洋服を探してクローゼットを見つけると、その奥に隠し部屋がある事に気付いた。
するとそこに、当初盗む予定だった肖像画があり、リビングに運んで模写を始める。
相変わらずジャスミンはニモの声に気付かず、ニモの精神は限界に達していた。
ニモが描く壁の絵はどんどん大きくなり、また外した天窓のボルトを飾り、自分で宗教のようなものを作り上げる。
さらには絵の中の男性が夢に出て来たり、起きてからも絵の中の人物がそばにいたりという幻覚を見るようになって行く。

宮崎駿みたいなおじさんが夢に出て来ました。
少女とわんこと共に絵に収められている彼は、家主なのかしら…?
極限状態に陥ると、人は何か「信じられるもの」を作り上げるのかもしれませんね。
破壊と創造
ボルト外しの作業を進めていると、塔から落ち足を骨折してしまう。
ドッグフードを食べ、瓶に残ったジャムを舐めながら、外で打ち上げられている花火をぼうっと見ていると、ジャスミンがそばにいる幻覚を見た。
絶望的な状況だったが、ニモは天井に付けられた火災報知器を発見。
これで助けを呼べると思い、太陽の光をガラスに集めて新聞紙に発火させ、たいまつにして火災報知器に近付けた。
するとスプリンクラーが作動したが、肝心の助けは来ずに辺りは浸水。
ニモはフラフラと立ち上がり、絵画を移動させた。
ーー
ーー
窓の外では、真っ白い雪がしんしんと降り積もっている。
ニモはついにボルトを全て外し、家主にメッセージを残す。
「もてなしてくれたお礼に、3つのものを破壊せず残しておいた」
「あんたには家だが、俺には檻だった場所。壊したのは悪かったが、必要な事だった」
「破壊がなければ、創造もないのだから」
そしてゆっくりと塔を登り、天窓へと向かう。
彼がいなくなった部屋には、絵画と、彼の作品が残されているのだった。

結局、これは全て家主の罠であり、ペントハウスに閉じ込められた人間がどういう「アート」を生み出すのか、どこかで観ているのではないかと思いました。
だから、火災報知器が鳴っても知られないように細工してあったのでは…?
ニモが無事に外に出られたのかは分かりませんでしたが、「私は丘を登って天国に行く」と言うセリフや、エンドロールの歌(Radiohead「Pyramid Song」)から、死んでしまったとも考えられますね。
筆者的には、ゆらゆらと動く影が見えたので彼は生きて脱出したものの、売れない芸術家(気取り)な人間になって朽ち果てたのでは?と思いました。
どちらにせよハッピーエンドではなさそう。
ニモが行った事はただの犯罪なのですが、彼が破壊したもの、作ったもの全てがアートに見えてしまう、不思議な作品でした!
『インサイド』が好きな人にオススメの映画
映画『インサイド』が好きな人にオススメの映画をピックアップ!
ザ・キラー
監督:デヴィッド・フィンチャー、主演:マイケル・ファスベンダーという、渋い組み合わせのクライム・スリラー。
こちらも重要な登場人物はほぼおらず、マイケル・ファスベンダーの名演技が光ります。